素材との向き合い方から、循環をデザインする
「循環型経済社会における、個人と建築・都市のつながりを考える」イベントレポートvol.1
淺沼組名古屋支店を拠点にして「建設業から循環型社会を目指す」ことをテーマに、循環型社会に向けての実践者を招き、つながりと共創を生むことを目的としたトークイベントシリーズ。2回目となる今回は、名古屋支店が昨年『crQlr AWARD 2022』アーバニズム賞を受賞したことを記念して、アワードを主催する株式会社ロフトワーク協力のもと「循環型社会における、個人と建築・都市のつながりを考える」を開催しました。
ゲストスピーカーには、名古屋支店改修PJの家具のデザインを担当していただいたTAKT PROJECT 吉泉聡さん、飛騨の広葉樹を生かした地域資源の活用を提案する 飛騨の森でクマは踊る代表の岩岡孝太郎さん。続いてのクロストークでは、モデレーターとしてロフトワークの宮本明里さんの進行で、ゲストスピーカーのお二人に加え、名古屋支店改修プロジェクトの担当者、山田幸一さんと岡崎紗矢さんを交えてクロストークを行いました。
今回のレポートでは、ロフトワークの宮本明里さんからのキーノートに続き、TAKT PROJECT 吉泉聡さんのプレゼンの様子をお伝えします。
<イベント詳細ページ>
循環型経済社会における、個人と建築・都市のつながりを考えるー『crQlr AWARD2022』受賞記念イベント開催
宮本明里 / Akari Miyamoto
株式会社ロフトワーク Layout Unit シニアディレクター
学生時代に能登半島で御祓川大学の立ち上げを行うなど、ひととまちの関わり方に興味を持ち、都市計画のコンサルタント会社に入社。まちづくりの事業計画や構想立案等に取り組む。「まちの魅力を司るのは個人や企業の創造的な活動」という意識から「共創の場づくり」を実践するべく、2018年にロフトワークに入社。プライベートでは、地域と10代をつなぐ古本屋「暗やみ本屋ハックツ」を設立し、各地の本にまつわる企画のサポートを行っている。人が集まる場のコミュニティ設計、コミュニティの接点を作ることが得意。
吉泉聡 / Satoshi Yoshiizumi
TAKT PROJECT代表 デザイナー
既存の枠組みを揺さぶる実験的な自主研究プロジェクトを行い、ミラノデザインウィーク、デザインマイアミ、パリ装飾美術館、21_21 DESIGN SIGHT、香港M+など、国内外の美術館やデザインの展覧会で発表・招聘展示。その研究成果を起点に、様々なクライアントと「別の可能性をつくる」多様なプロジェクトを具現化している。
Dezeen Awards 2019(イギリス)にて「Emerging Designers of the Year」に選出、Design Miami/ Basel 2017(スイス)にて「Swarovski Designers of the Future Award」に選出など、国内外のデザイン賞を多数受賞。3つの作品が、香港M+に収蔵されている。
iFデザイン賞審査員(2023年)、グッドデザイン賞審査委員(2018年-)。東北芸術工科大学客員教授、武蔵野美術大学基礎デザイン学科非常勤講師。21_21 DESIGN SIGHT企画展「Material, or 」の展覧会ディレクターなども務める。
循環型経済をデザインする、グローバルアワード『crQlr AWARD』の活動
まずは、ロフトワークの宮本明里さんより『crQlr AWARD』の概要と、サーキュラーデザインの傾向について紹介していただきました。
ロフトワークは2021年よりcrQlr AWARDの活動を開始。現在の経済社会を循環型に変換するためにはデザインの力が必要と考え、国内初の「サーキュラーデザイン」分野のアワードとしてスタートしました。アワードとしてプロジェクトを評価する以外にも、アワードを起点としたコミュニティづくりを行っています。アワードを記念して世界各国でのイベント、実践者を招いてのMeet Upや実践者の拠点を訪ねるフィールドツアー企画などこれまでに開催してきました。
「アワードという名前がついているのですが、賞をつけることに重きを置いているものではなく、サーキュラーデザインにまつわる仲間集め・連携を生むことを目的として始めた活動になります。サーキュラーは企業一社や個人が完結するものではなくなってきています。取り組みをよりオープンにして、連携できるところがないか模索するコミュニティとして活動しています」
昨年は30ヵ国より130のプロジェクトが応募。続いて、世界中から応募が集まる中で見えてきた、サーキュラーデザインの傾向について共有していただきました。
プロジェクトをオープンにして、連携を模索する。サーキュラーデザインで循環型社会の実現を描く
宮本さんは、crQlr AWARDS2022から読み解く、サーキュラーデザインのキーワードについて、次の5つを挙げました。
- アイデアを最大限に活かすポテンシャルを秘めた「Bottom-up(ボトムアップ)な活動」
1つ目には地域のなかで草の根的に活動しているところに焦点を当てて、どうやって連携していけるか考えていくこと。
- 過去を遡るのではなく、未来を考える「Traceability(トレーサビリティ 追跡可能性)」
- 多様な世代との出会いにつながる「Transparency(トランスペアレンシー 透明性)」
「トレーサビリティに関しては、これまでは過去のルートをたどり、どのように消費者に渡っているか、という観点で語られることは多かったものの、その先の消費者の手元を離れた後にどうあるべきか。“未来のあるべきところ”を考えて循環の最後の輪のところまで考えていく視点が大切」と宮本さんは言います。
続くトランスペアレンシー、透明性については、製品やサービスの情報を公共に開き、誰でもアクセスしやすい状態にすること。 「たくさんのプレーヤーに参加してもらうことによって活動の分散化を進めることができます。1人で1つの活動を完結すると、個人に活動が依存して、その人がいなくなると立ち行かなくなってしまう。中に入ってくるコミュニテイの数や質が多様であればあるほど活動の輪が広がりやすくなります。活動を「分散化」することで、より柔軟性を持ち、さらに「民主化」の視点で、多様な人々が決定し合い、行動を起こすことでレジリエンスを高め、循環型社会への浸透を後押しすることができます」
- 独立したパーツで構成されている「Modularity(モジュール性 独立したパーツで構成されている)」
4点目、モジュール性については、「建築業界をはじめ、さまざまなところでより交換可能なパーツで構成されているプロダクトが増えてきているという印象があります」と宮本さん。「変化に対応するということに加えてエネルギー効率が高く、捨てずに長く使い続けることができる。サーキュラーエコノミーの一般的な概念図の中でいうと、消費者・利用者が自分で更新したり、修理したり、組み替えていくことが可能。最後のユーザーの手元にあるところで循環が回っていくことが特徴です」
- 世界を動かし、循環型経済を加速させる「ART(アート)」の力
5点目は、個人の動機から生まれるアートで驚きや感動の共有体験をつくりだし、人を巻き込む力につなげること。
「循環型デザインやサーキュラーエコノミーというと、技術に偏ったアプローチが多い印象があるのですが、個人の問いや、内発的な動機から出てくる、“人と地球の関係性・あり方”を、アートを通して捉え直すところは大きな力になると思います」
素材そのものに向き合うことがサーキュラーにつながる
続いて、ゲストスピーカーとしてサーキュラーデザインの実践について紹介していただいたのはTAKT PROJECT代表の吉泉聡さん。TAKT PROJECTは淺沼組名古屋支店改修の家具デザインを担当。現在は、仙台にラボを開き、東京と東北の二拠点で活動を行なっています。
名古屋支店改修プロジェクトで家具の視点で循環に取り組む事例と、仙台を拠点として東北のリサーチをする中で出会った言葉や風景から話題提供していただきました。
「名古屋支店改修プロジェクトでは、これまで端材として工事の中で出てくるものを最大限活かして家具化することに取り組みました。建築のスケールとして活かしきれない素材、木の端材や、元のオフィスでの石材の端材など色々なものが出てくる中で、建築全体のコンセプトに寄り添うようにつくりました」
TAKT PROJECTは、名古屋支店改修のデザインパートナーの建築家 川島範久さんに声をかけられ、プロジェクトに参加。川島さんとのディスカッションで生まれたのは「自然(じねん)」という概念だったと言います。
自然(じねん)―自らの本性にしたがって(自ら然るべく)あるもの、あるいは生成するもののこと
「サーキュラーというと、「自然素材を使う」ということに結びつきやすいと思います。ですが、単に環境配慮だから自然素材を使うことを目的として考えていったのではなく、まず、素材そのものと向き合いながら、内側に入っていく感覚で「自然(じねん)」というコンセプトが大切なのではないかと思いました」
自然(じねん)という概念については、TAKT PROJECTの実際の作品事例を用いて説明がありました。
まるい球体に800個ほどのLED電球を敷き詰め、その上に光硬化性の樹脂を流した作品は、「プラスチックがあるがままに成長していくように形づくられていくことで光が変化する。鍾乳洞やつららのようにかたちが生まれるプロジェクト」と吉泉さん。過程を完全に人間が制御しないことで、場の環境に委ね、この場所で成長を続けます。
また、右の作品は白いプラスチックの上に後から草木染めをした作品。「草木染めをすることで、全て違う表情が生まれ、自然特有の優しい雰囲気がプラスチックと融合されていきます。大量生産品と言うと、均質な使い捨てのイメージがありますが、自然とつながりながら自分でつくると、大切な存在となり、自分とのつながりが深い固有な価値を持っていきます」
「プラスチックは、金型をつくることで人間が思い描いた形を作り出すことができ、大量生産されてきました。それはプラスチックというマテリアルの唯一のあり方ではなく、人間が与えた意味だと思います。
周りの環境と関係しながらつくると全く違うもの、意味づけへと変わっていきます。どうやって、周りとつながりながら素材をデザインしていけるか。そういうところが、結果としてサーキュラーにつながると考えました」
続けて、吉泉さんは名古屋支店のコンセプトについて話をつなぎます。
「自然(じねん)というコンセプトで、素材のあるべき姿が生成されるようにデザインする。これからの素材として、自然素材を「再発見」し、廃材などの人工的な素材も、自然(じねん)に向き合うことで、「これまで」と「これから」に両方に向き合うデザインとする。
そういったことを名古屋支店の家具のコンセプトとして取り組みました。また、家具は、建築に彩りを与えるような存在として建築に『+Color』の要素を与えました。大地的な建築の中に、花を添えることで、その場の空気が動き出すような場所にすることを表現としては意識しています」
「また、挑戦していることとしては、執務室のテーブルは杉材でつくったのですが、社員の皆さんに染色をしていただいていて、階が変わるごとに色が微妙に違います。オフィスの空間は非常に均質的で、何階に行ったか自分が分からなくなるということが良くあります。そこに色をつけることで変化を出すこともコンセプトにしています」
東北リサーチで学ぶ、人と自然のあり方、地球に対する向き合い方
後半は、仙台を拠点に行なっている東北リサーチの話題提供。東北リサーチはTAKT PROJECTが「社会問題を都市の中・都市の文脈で解決する前に、今とは違う“知覚”で自然・世界を感じる必要があるのではないか」という問いを持ち、厳しい自然の中に生きる人々の言葉や風景を体感するというプロジェクト。
東京に続き、仙台にラボを開いたことを吉泉さんはこのように話します。 「社会・環境問題はデザイナーにとって大きな問題。サーキュラーといったときに技術による解決の話が出てくる。それはもちろん大切なのですが、その前に、もともと問題を生んできた我々の地球に対する向き合い方・態度、どのように地球を考えるのかということがアップデートされないと、また同じことが起きてしまうように思っています。どのように地球に向き合っていくかということを一旦都市から離れて、自然が厳しいエリア、少し文化の背景が違うエリアに行ってみて考えようということを続けています」
白神山地でマタギと共に雪の中を登山。動物の命をいただきながら暮らす人々。恐山に行き、イタコに話を聞いた言葉。遠野物語で知られる遠野の、人と自然の物語が語り継がれる場所。秋田の油田採掘現場。山岳信仰の山に登る。東北地方で暮らしを育んできた人に会いに行き、その土地の「知覚を採集」する。そういった場所に訪れると、普段思っても見なかったことや、言葉と出会うと言います。
なかでも、吉泉さんが印象に残ったエピソードとしては、あるマタギの方に聞いたという言葉。
「山を見て「自然」とは言わないな」
「私たちは、「自然が美しい」というように、「自然」という言葉を当たり前のように使っているけれど、彼らにとっては目の前の山や川は自然という言葉の中にはない。代わりに、「〜山、〜川に行く」と使うらしいです。自分との間にボーダーがない。自然という言葉を使った途端に、自然と私というように、線を引いてしまっているということに気が付きました」
「この先の社会のあり方を考える上で、サーキュラーというソリューションを考えることも大事。そして、一方では自分たちがこの地球に対してどういう態度を更新できるかということも両方やっていかなければいけないと思っています」
私たちは、地球や自然とどのように向き合うのか。問いを投げかけるような吉泉さんの話からは、これまで人間が自然の中で一部として暮らしを続けてきた年月と文化があることを感じました。自然を切り崩し、離れてしまった社会での私たちの暮らし方は、人間本意のもので、物の見方や考え方、つくり出すものも大きく変化しました。
今一度、自然との関わり方から自分たちの「どうあるべきか」を捉え直し、それを都市の営みに落とし込んでいく。建設業という、生活の「衣食住」の「住」の場所をつくり出す私たちにとっては、人々に豊かな生活空間をつくり出すことと、その生活空間の土台にある、地球環境に良い循環をもたらすこと、この両立を目指していかなければいけません。
では、実際に自然との関わりを都市の生活につなぐためには何ができるのか?
イベントレポートvol.2では、ゲストトーク飛騨の森でクマは踊る代表 岩岡孝太郎さんに続きます。岩岡さんからは、岐阜県飛騨市での活動について、地域の資源を人や都市につなぐ実践事例についてお話を聞きます。
撮影:松千代
テキスト:さとう未知子